精神科で受ける患者からの暴力!5つの原因と12個の未然防止策を徹底解説
精神科で働いていると、「患者さんに暴力を振るわれるのではないか」と、危険を感じたことはありませんか?
実際、過去に行われた調査では、精神科病棟に勤務する看護師230名中、暴力を受けた経験が「ある」と答えた人が158名(68.7%)であったということがわかっています。(参照:福岡県立大学 精神科病院における患者から看護師への暴力の実態と看護の在り方)
また、暴言・暴力を受けた精神科で働く看護師の心理的側面に関して、外傷後ストレス障害(PTSD)の診断のつく可能性のある者が21.3%に認められたということもわかっています。(参照:精神科看護師の患者から受けた経験年数による暴言・暴力に対する心理的衝動の要因)
中には、「精神科で働くうえで、患者さんからの暴言や暴力は仕方ない」と考える方もいるかもしれません。しかし、暴力によって仕事にやりがいを見いだせなくなることもありますし、できれば患者さんからの暴言や暴力を未然に防げれば防ぐべきだと思います。
暴力に至る背景には、何か原因がある場合が多いです。そこで今回は、患者さんが暴力を振るってしまう理由や、未然に暴力を防ぐための方法について紹介します。
暴力を受けて当たり前と考えるのではなく、暴力を受けないために工夫することも意識して患者さんとかかわるようにしましょう。
目次
1 患者さんが暴力を振るう5つの原因
精神科にかかっている患者さんは、なぜ看護師に暴力をふるってしまうのでしょうか。どのような原因が考えられるのか、対策を立てるうえでも原因をしっかり理解しておきましょう。
1-1 看護師の対応への不信感
患者さんは、看護師の対応に不満を持つことがあります。これは、ケアの質に対する不信感、不適切な対応、あるいは対話の欠如から生じる可能性があります。
看護師は基本的に、患者さんの個別性に合わせた看護を展開します。しかし、患者さんとの付き合いが短い場合や、患者さんの思いを十分に読み取ることができなかった場合、患者さんは看護師の対応に不信感を感じたり、看護師の対応に不満を感じることもあります。
その感情が「怒り」や「憎しみ」に変化し、看護師に対して暴言や暴力をふるう原因になります。
看護師は、日々患者さんとコミュニケーションをとることで、少しずつ信頼関係を構築していきます。
特に精神科で勤務する看護師の場合、日々のかかわりの中で患者さんの個別性をしっかり理解し、その患者さんに合ったかかわり方を考えていく必要があるのです。
1-2 自分の要求が通らない苛立ち
患者さんが自分の要求が看護師や他の医療スタッフによって満たされないと感じると、苛立ちを感じることがあります。これは、具体的なニーズ(食事や薬のタイミングなど)が満たされない場合や、精神的な要求(聞いてほしい、理解してほしいなど)が満たされない場合に発生します。
入院生活を送る中で、自分の考えや思いなど、様々な要求が出てくるでしょう。しかし、入院生活という特殊な環境やタイミング等により、自分の要求すべてを通すことはできません。
精神科の患者さんの場合、疾患により「自分の要求すべてを通すことはできない」ということを考えることが難しいこともあります。
そのため、自分の考えたことを看護師に止められると、「自分の要求が通らなかった」、「自分を否定された」など怒りの感情が生まれ、看護師に暴力をふるってしまうことがあります。
1-3 自分の思いをうまく表現できない苛立ち
言葉にできない感情や思い、そしてそれが誤解される恐怖から、患者さんはストレスや不安を感じることがあります。
私たちは、様々なことを考えながら生活し、時には自分の考えを表現しなければなりません。しかし、疾患によっては、自分の思いをうまく言葉や行動で表現することができません。
そのことに対して苛立ちを感じたり、「自分の考えを、なんでわかってくれないのか」と怒りを感じることもあります。そして、暴言や暴力などにつながってしまうのです。
1-4 長期間の入院生活のストレス
長期間の入院生活はストレスの一因となることがあります。患者さんは、自分のプライバシーが制限され、日常生活が制御され、周囲との人間関係にストレスを感じるかもしれません。このストレスは、時に暴力的な行動につながる可能性があります。
近年、精神科の新規患者さんの入院期間は短縮傾向にあります。しかし、精神科の平均在院日数は274.7日です。全病床の平均在院日数29.1日と比較すると、非常に長いということがわかります。(参照:厚生労働省 最近の精神保健医療福祉施策の動向について)
中には、10年以上も入院生活を送っている患者さんもいます。
また、精神科は他の診療科とは異なり、外出や外泊、持ち物などに様々な制限が設けられています。そのため、入院生活に大きなストレスを感じている方も非常に多いです。
うまくストレスを発散することができればいいのですが、様々な制限のある入院生活では、なかなかストレスを発散することはできません。その結果、うまく感情がコントロールできず、暴言や暴力につながることがあるのです。
さらに、先の見えない入院生活や、退院後の生活や仕事などに不安を感じることもあります。これらの不安が原因となり、暴言や暴力につながる可能性も考えておかなければなりません。
1-5 妄想や幻覚などの疾患による症状
精神疾患によっては、妄想や幻覚などの症状が出現することがあります。これらの症状が、誤解や混乱を引き起こし、暴言や暴力につながる可能性があるということを理解しておくことも大切です。
例えば、統合失調症には「破瓜型」、「緊張型」、「妄想型」の3種類のタイプがあります。そのうち、妄想型の統合失調症の場合、名前の通り妄想や幻覚が代表的な症状として出現します。
妄想の内容は誇大妄想(自分の親は人気俳優であるなど)や被害妄想(誰かに嫌がらせをされているなど)が中心となることが多いですが、中には「あの人を殴らなければ、自分が殴られてしまう」など、攻撃的な妄想が出現することもあります。
物忘れなどの症状が代表的な認知症でも、暴言や暴力が出てしまう可能性があるということをご存知でしょうか。
例えば、内服薬を飲ませるときに「ひどいことをしないで!」と暴力をふるったり、シャワー介助をしようとして「何をするんだ!」と暴言を吐いてしまうことがあります。
これらは、今の状況が十分に理解できないことによる不安感や、感情のコントロールがうまくいかないことなどが原因で生じるのです。
このように、疾患によって暴力や暴言が出現することがあるということを頭に入れておきましょう。
2 暴力を未然に防ぐために明日からできる5つのこと
では、どうすれば暴力や暴言を未然に防ぐことができるのでしょうか。対策を見ていきましょう。
2-1 疾患を理解する
まず大切なことは、「疾患を理解する」ということです。
疾患によって、暴言や暴力をふるってしまう理由が異なります。そのため、疾患を十分に理解しておくことで、特定の行動の背後にある可能性のある要因を分析し、暴言や暴力をふるってしまう原因を取り除くことにつながるのです。
しかし、すべての患者さんが教科書通りの症状というわけではありません。そのため、教科書や専門書等で学ぶだけでなく、患者さんとのコミュニケーションや先輩看護師からのアドバイス等からも、疾患や患者さんの個性を理解するようにしましょう。
2-2 一人で対応しない
患者さんとの対話やケアは、可能な限りチームで行うことが重要です。これにより、患者さんが他のスタッフに対する不満を持っていても、他のメンバーが対応することが可能となります。また、危険な状況が発生した場合には、迅速な支援を受けることができます。
2000年に実施された調査によると、言葉による攻撃の場合は「一人で対応しているときが多い」が47.7%、身体に対する攻撃の場合は「一人で対応しているときが多い」が55.0%を占めているということがわかっています。(参照:精神科入院患者の攻撃行為に関する研究)
看護師が不足していることや、他のスタッフの手が空いていないなどの理由により、一人で患者さんの対応をしなければならない状況も多いでしょう。
しかし、興奮状態にある患者さんや、幻覚が出現しているなど暴言や暴力を起こしやすいと考えられる患者さんの対応は、複数で行うようにしてください。
2-3 安全な距離をとる
安全な距離を保つことも重要です。これは、物理的な距離だけでなく、感情的な距離も含みます。
患者さんとコミュニケーションをしっかりとってケアを行っている場面でも、患者さんからの暴言や暴力が生じることがあります。
表情が険しくなる、口調が荒くなるなどの暴言や暴力の兆候があれば、念のため患者さんと距離をとるようにしましょう。
病室内であれば廊下へ、廊下であればナースステーション内へ移動することで、暴言や暴力から身を守ることができる可能性が高くなります。また、先ほども紹介したように、スタッフが複数いる場所へ行くことで、暴言や暴力を防ぐことにもつながります。
2-4 丁寧に説明をする
患者さんの理解を助けるために、丁寧に説明することが重要です。これにより、患者さんが何が起こっているのか、何が求められているのかを理解しやすくなります。理解が深まれば、彼らの不安や恐怖を軽減し、コミュニケーションを円滑にすることができます。
疾患によっては、自分がされているケアや治療の意味が理解できず、「ひどいことをされている」、「自分一人でさせてもらえない」などネガティブな考えに陥り、暴言や暴力につながる可能性があります。
そのため、どのようなケアや治療を行う場合であっても、事前にわかりやすいように丁寧に説明しましょう。
入院歴の長い精神科の患者さんの場合、ケアや治療内容に大きな変化がなく、つい説明を省いてしまうこともあります。しかし、前回は説明をしなくても大丈夫だったとしても、次も大丈夫とは限りません。
また、スタッフそれぞれの説明の内容が違う場合、患者さんが混乱してしまいます。スタッフ間で説明方法を統一しておくことも意識しておきましょう。
2-5 過去のケースを確認しておく
過去のケースを確認することは、予防策を立てる上で重要です。
患者さんの中には、過去に暴言や暴力行動を起こした方もいるでしょう。過去にこのような行動があった患者さんに関しては、暴言や暴力に至った状況やタイミング等を確認しておくことも大切です。
事前に確認しておくことで、暴言や暴力につながりそうな状況を避けることができるかもしれません。また、そのような状況を作らないよう工夫することもできます。
3 医師と看護師の連携による事前防止策
どのような診療科でも、患者さんに最適な医療や看護を提供するためには、医師と看護師の連携は非常に大切です。では、精神科で働く看護師ならではの、医師と看護師の連携を図るポイントを見ていきましょう。
3-1 医師への働きかけを行い連携する
まずは、暴力の危険を感じる患者さんがいたら、積極的に看護師から医師に働きかけを行いましょう。特に患者さんの行動や感情の変化についての報告は、暴力的な行動の予防に役立ちます。また、医師との連携により、患者さんの治療計画の見直しや調整もスムーズに行えます。
3-1-1 必要に応じて頓服薬や身体拘束の指示をもらう
患者さんからの暴力を未然に防ぐために様々な対処を行っていたとしても、暴力が生じてしまうことがあります。患者さんの気持ちが不安定な状態となったときや興奮状態となったときのために、あらかじめ頓服薬を処方してもらっておきましょう。
また、興奮状態が強い場合、看護師だけでなく他の患者さんにも暴力が向く可能性が考えられます。その際、保護室などの部屋へ移動することが可能か、身体拘束を行ってもいいかということも確認しておくと良いでしょう。
しかし、部屋の移動や身体拘束に関しては、ご家族の同意が必要な場合が多いです。入院時にあらかじめ同意書にサインをもらっていると思いますが、万が一に備えて同意書の確認をしておきましょう。
3-1-2 病状説明は必ず看護師が同席し、説明内容を看護師全体で共有する
入院時や治療内容が変化したとき、症状が変化したときなど、患者さんやご家族に病状説明が行われる機会があります。その際、看護師は必ず同席するようにしましょう。
病状説明後、患者さんから看護師に対して「この前の説明の話ですが…」と、病状説明の内容を確認されることがあります。その際、医師の説明と看護師の説明が異なる場合、患者さんが混乱してしまいます。
そして、暴言や暴力につながる可能性が生じてしまうのです。病状説明の内容は必ずカルテに残し、特に大切なことや看護師間で共有しなければならなない情報は、カーデックス等のわかりやすい箇所に記載しておくようにしましょう。
3-1-3 最新の情報を看護師に伝達する
医師に院内研修やプチ勉強会等を医師に開催してもらい、看護師も精神科に関する最新の知識を身につけることができるようにすると良いでしょう。
医師は看護師以上に、研修や学会等へ参加する機会が多いです。そのため、最新の精神科医療に関する知識を習得することができます。
看護師も参考書を活用したり研修等に参加して、精神科の治療や看護に関する知識を身に着けていると思います。しかし、精神科の分野は他の診療科よりもまだ研究が十分に進んでおらず、発展途上な部分が多いです。
また、精神科の疾患は「現代病」が多く、常に最新の知識の習得が求められる分野でもあるので、医師との連携を意識しましょう。
3-2 医師へ密な共有を行い連携する
次に、医師に看護師の思いをくみ取って直ぐに動いてもらえるよう、情報共有を密に行うためのポイントを紹介します。
3-2-1 患者さんの思いや考えを医師に伝達する
看護師は、患者さんとのかかわりの中で感じた変化や、患者さんの思いなどを医師に伝えるようにしましょう。
患者さんは、医師よりも看護師の方が接する時間が長いです。日頃のかかわりの中で信頼関係を築きやすく、自分の思いや考えなどを看護師には表出しやすいと考えている患者さんも少なくありません。
医師に密に報告することで、患者さんの症状が安定するためのヒントを見つけることができるかもしれません。
3-2-2 患者さんのご家族の思いや考えを医師に伝達する
看護師は、患者さんだけでなくご家族に対してのケアも行う必要があります。少しでもご家族の不安や疑問が解消できるよう、ご家族の思いや考えを医師に伝え、ご家族が納得できるように支援することが大切です。
入院時や病状説明の時などに、患者さんのご家族も医師の説明を受ける機会があります。
しかし、疑問に感じたことや不安なこと、今後のことなど、その時に医師に確認することが難しい場合も多いものです。そのため、後日看護師に対してご家族の思いや考え等を話されることもあるでしょう。
そこで得た思いや考えを密に医師に報告することで、暴言・暴力の原因を未然に防ぐことための行動に繋がり安くなります。
3-2-3 処方が変更となった際の患者さんの様子を確認する
患者さんの症状の変化に伴い、使用する薬剤が変更となることも多いです。医師は薬剤の処方は行いますが、内服介助や内服後の観察は看護師が行うこととなります。そのため、処方が変更となった場合は特に、患者さんの様子に変化がないか確認してください。
暴言や暴力のある患者さんに対しては、抗精神病薬や抗不安薬が使用されることが多いです。これらの薬剤ではふらつきや眠気、脱力などの副作用が注目されがちですが、便秘や食欲不振などの副作用が出現することもあります。日頃の様子と比較し、気になる点があれば必ず医師に報告するようにしましょう。
4 症状の落ち着いている患者さんの多い病棟へ異動する
上記で紹介したような対策をとったとしても、なかなか患者さんからの暴言や暴力を回避できないという方もいるでしょう。
中には、特定の患者さんから暴言や暴力のターゲットにされてしまっているという方もいるかもしれません。
このような場合、急性期病棟で勤務しているのであれば慢性期病棟へ、閉鎖病棟で勤務をしているのであれば開放病棟へ、比較的症状が落ち着いている患者さんの多い病棟へ異動することも検討してみてください。
暴言や暴力を受けることで、看護師としての自信がなくなってしまいます。また、「自分が悪いから暴力を振るわれるんだ」と、暴言や暴力が当たり前と感じる状態はおすすめできません。
「看護師だから仕方ない」、「自分の対応が悪いからだ」と考えるのではなく、自分の身を守ることを第一に考えるようにしましょう。
5 まとめ:精神科看護師の患者からの暴力対策への取り組みとその重要性
患者さんが暴力を振るってしまう理由や、未然に暴力を防ぐためにできることなどについて紹介しました。
「精神科の患者さん=暴力行為がある」と考えてしまいがちですが、暴力に至るには、何か原因がある場合が多いです。
患者さんと接する際は、事前に暴力をふるう原因を取り除けるように関わりましょう。
また、疾患を理解するとともに、複数での対応や事前にしっかり説明をするなどの対策をとることで、ある程度の暴力を防ぐことができます。
暴力を受けて当たり前と考えるのではなく、暴力を受けないために工夫することも意識して患者さんとかかわるようにしましょう。
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