デスカンファレンスを実りあるものにするための5つ課題とその対応策

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デスカンファレンスを実りあるものにするための5つ課題とその対応策

デスカンファレンスを通じて自身の成長を感じていますか?
デスカンファレンスが責任追及の場になっていませんか?
自分の本当の感情を発言しずらい空気になっていませんか?

デスカンファレンスを実りあるものにするためには、参加者1人1人が今回紹介する、目的・課題・対応策を理解して行動することがとても大事です。

終末ケア、緩和ケアの質の向上のために、デスカンファレンスは必要不可欠だと言われています。しかし、その意義は認めつつも、さまざまな現実的な制約や条件の中で、実のあるデスカンファレンスを行なえていない場合が多いようです。

この記事では、現在行われているデスカンファレンスに見られる5つの課題を取り上げ、その対応策について解説していきます。

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1.デスカンファレンスの定義

デスカンファレンスとは、病院や医療施設で患者さんが亡くなった後に行われる会議のことです。例えば、ある患者さんが亡くなった後、その患者さんのケアに関わった全てのスタッフが集まり、ケアの流れや結果について話し合います。これは、その患者さんの病状や治療、看護、そしてその死に至る過程全体を分析し、学習するための重要な場となります。


2.デスカンファレンスの目的

デスカンファレンスの目的は、終末期ケアを振り返って今後のケアに活かすこと及び、医療者の精神的な健康を保つことです。

終末期の患者さんの死や、死への過程に立ち会う医師や看護師は、医療人としての無力感を感じることが少なくありません。「この方法で良かったのか」などの倫理的な自責の念を持つこともあります。また、患者さんや家族の感情の動揺に、自分の感情も揺さぶられてしまいます。

このような気持ちを自分ひとりの心に積み残したまま次の医療に携わるのは、医療人自身の精神的な健康のリスクになりかねません。

デスカンファレンスの目的は、一義的には終末期ケアを振り返って今後のケアを向上することにありますが、このようなリスクを回避するのも重要な目的なのです。

2-1.完璧を望めないテーマでの一歩前進

「手術は完璧でした」「もうすぐ退院できますよ」と患者さんさんや家族に伝えるのは、医師や看護師の誇りであり喜びですが、そういう充足感が得られないのが終末ケアです。

医療の限界や意味という根本的な問題に否応なく向き合うことになるのが終末ケアだと言ってもよいでしょう。

したがって、終末期ケアに完璧はあり得ず、多くのケースで「充分なことができなかった」という不全感や「ああすれば良かったかも」という後悔がともないがちです。

しかし、もともと完璧を望めない医療だからといって現状に甘んじるのではなく、許された条件の中で患者さんや家族のケアの一歩前進を目指して、一つひとつのケースを振り返って検討するのがデスカンファレンスの目的です。

2-2.経験の浅い看護師の育成

経験の浅い看護師は、患者さんや家族に関わりたいと思っても自信が持てずに、積極的に関わっていけない傾向があります。(参照: 日本看護学会論文集 デスカンファレンス導入による看取りに関する意識の変化

しかし、経験が浅い看護師もデスカンファレンスに参加して、先輩看護師の意見や思いを聞くことで看取り看護に対する知見を増やし、自信をつけていくことが期待できます。

2-3.看護師自身のグリーフケア

患者さんの苦痛や家族の嘆きに立ち会った医師や看護師は、自分自身もグリーフ(悲嘆、悲しみ)の感情を抱きます。

デスカンファレンスで反省点や改善案を話し合う中で、自分の悲しみの感情もチームと共有することができ、それがグリーフケアにつながります。


3.デスカンファレンスの効果

デスカンファレンスを通じて、医療スタッフは過去のケアの結果から学び、それを次のケアに活かすことができます。例えば、ある患者さんが苦痛を訴えたときの対応について再評価し、次回から同様の症状が現れたときには、より迅速かつ適切に対応することができます。これは病院全体のケアの質を向上させることに繋がります。

また、デスカンファレンスは医療スタッフ間のコミュニケーションを深め、精神面の健康を保つ効果があります。また、チームワークを強化する役割も果たします。同じ患者さんを診ていた医師や看護師が、それぞれの視点から得られた情報を共有することで、チーム全体の理解が深まります。


4.デスカンファレンスの進め方

この章では、デスカンファレンスの進め方として以下を解説します。

  • 実施時期や頻度

  • 参加者

  • デスカンファレンスの流れ

  • デスカンファレンスの記録方法

4-1.実施時期や頻度

デスカンファレンスは、基本的には患者さんが亡くなった後すぐに行われることが一般的です。その理由は、ケアの詳細が鮮明に記憶されているうちに反省・学習することで、より具体的で深い洞察を得られるからです。

頻度については、施設の状況や、看護師の勤務形態などによりますが、可能な限り定期的に行うことが望ましいとされています。例えば、私が以前勤めていた病院では、1ヶ月に1回、患者さんが亡くなった場合には必ずデスカンファレンスを開催していました。

4-2.参加者は患者さんに関わった職種

デスカンファレンスには、その患者さんのケアに関与した医師、看護師、ケアスタッフなどが参加します。具体的には、主治医や担当看護師、リハビリテーションスタッフ、栄養士など、その患者さんのケアに関わった全ての人が集まります。また、場合によっては、心理カウンセラーやソーシャルワーカーなど、患者さんやその家族をサポートした他の専門家も参加することがあります。

4-3.デスカンファレンスの流れ

デスカンファレンスは、概ね次のような流れで進行します。まずはじめに、患者さんの病歴や治療の経過について振り返ります。例えば、「この患者さんはどのような病状で入院されましたか?」「何が治療の目標でしたか?」「”治療の経過はどうでしたか?」といった点について話し合います。

次に、その患者さんのケアについて何がうまくいったか、何が改善が必要だったかを議論します。具体的には、「どの部分のケアがうまく行ったと思いますか?」「何が改善点でしょうか?」「次に同じ状況が起きたとき、何を変えたいですか?」などと話し合います。

4-4.デスカンファレンスの記録方法

デスカンファレンスでの議論や結論は、後から見返すことができるように記録されるべきです。具体的には、ノートやデジタルツールに議論のポイントや結論をまとめ、それを参加者全員で共有します。これにより、将来のケア改善に活かすことが可能となります。

例えば、私が以前勤めていた病院では、デスカンファレンスの結果は全スタッフで共有され、新たに入院する患者さんのケアに活用されていました。


5.デスカンファレンスの課題5つ

デスカンファレンスに上記のような目的や意義があるにしても、現実にはさまざまな制約の中で期待する効果を上げられないケースが少なくありません。

デスカンファレンスを有意義なものにするために解決しなければならない課題には、次のようなものがあります。

5-1.医師がしゃべって終わってしまう

医療に関して医師は看護師より立場が上なので、デスカンファレンスで医師が一方的に話すと、看護師は何も言えなくなってしまうことがあります。(参照:戸田中央総合病院 デスカンファレンスとは何か―意義と実際

医師と看護師のケアに対する考え方のずれを確認して、相互理解を深めるのもデスカンファレンスの意義の一つですが、医師だけが一方的にしゃべって終わるようなカンファレンスでは、そういう効果も望めません。

立場や知識は医師の方が上でも、看護師は医師には言いにくい患者さんや家族の声を聞いているなど、医師の知らない情報も持っています。

医師が主導権をとって看護師が遠慮しているようなデスカンファレンスでは、医師だけでなく看護師も臆せずに発言する雰囲気づくりやルール作りが重要な課題になります。

5-2.参加者が責められている気になってしまう

デスカンファレンスでは、参加者の全員が何らかの自責の念を抱えている場合が少なくないので、反省点を話し合うときに自分が責められているような気になることがあります。

カンファレンスで自分が責められているように感じ、参加者がカンファレンス前よりも後ろ向きの気持ちになるのでは、やらない方がマシだということになります。

医師が一方的にしゃべるのも、もしかすると何か自責の念を持っている医師が、自分が責められないように機先を制している自己防衛なのかもしれません。

医師も、看護師もカンファレンスでの誰かの発言を自分への非難と受け取らないこと、自己防衛的な態度で臨まないことが、デスカンファレンスを有意義なものにするための重要な課題です。

5-3.自分たちのグリーフケアには無頓着である

緩和ケア、終末期ケアでは、看護師は患者さんや家族の大きな感情の動きに接することになり、それによって自分の感情も揺さぶられます。

患者さんや家族は、医師よりも看護師にさまざまな感情をぶつけてくるものです。家族から投影されたグリーフ(悲嘆)の感情が蓄積すると、精神的な疲労からバーンアウト(燃え尽き)してしまう危険があります。

ケアを与える者は自分もケアされる必要があるのですが、医療者は自分のグリーフケアには無頓着なことが多いものです。

デスカンファレンスでは、ケアの質を向上について話し合うと共に、医療者のグリーフをケアし、支え合うことが求められます。

5-4.交代勤務、忙しい日常業務の中では時間的制約がある

忙しい業務の中で、デスカンファレンスの時間を取ることは簡単ではなく、現実的には大きな課題になります。

交代勤務なのでそのケースに関わった人が全員参加するのはもともと無理なのですが、おもな担当者や患者さんや家族とのトラブルに直接かかわった者が参加していなくては、意味のあるカンファレンスになりません。

全員参加ができないカンファレンスを、どのように全員にとって有意義なものにしていくのかもデスカンファレンスの課題です。

5-5.時間が経ってから開催される

時間的な制約に関係していることですが、患者さんの死からあまり日にちが経ってからのカンファレンスは望ましくありません。

細かいことを忘れてしまうだけでなく、人は時間の経過とともに記憶を合理化し変容させるものだからです。

デスカンファレンスでは、数値化されたデータだけが重要なわけではなく、患者さんや家族の気持ちについて振り返ることが大切です。メンバーがそれぞれの立場や個性で合理化した記憶を持ち寄っても、重要なポイントが抜け落ちてしまっていたり、不必要に増幅されている可能性があります。


6.デスカンファレンスの課題への対応策

上記の5つのデスカンファレンスの課題への対応策をそれぞれ考えてみましょう。

6-1.医師が主導権を取りがちなときは、心理的安全を確保するルール作りと司会者の役割が重要

看護師のグリーフケアもその目的にあることから、積極的に自分の思いや意見を発信してもらうことが重要となります。

そのためには、心理的安全を確保する必要があり、全員が発言しやすい空気をつくらなければなりません。司会者自ら「このカンファレンスは職種は関係なく、皆フラットに議論しあいましょう。間違っても良いので、発言することが何より大切です」と声がけをするように心がけましょう。

また、その上で医師が場を仕切って、一方的にしゃべって終りになるようなカンファレンスにしないためには、「参加者全員が1回は発言する」というルールを設けて、司会者が発言を促がすことが必要です。

カンファレンスで検討する項目の中に「ナースコールの頻度と内容」など、看護師しか発言できないものを入れるのも対策になります。「家族へのケアについて」「患者さんとのかかわりで苦慮したこと」なども主として看護師が発言する項目になります。

また、カンファレンスの冒頭では司会者が毎回必ず、この場を有意義なものにするためには看護師の積極的な発言が重要であることをアナウンスすることも大切です。

医師の性格もあるので、すぐには効果が上がらないかもしれませんが、このような対策を通じて、看護師がケアの専門家であるという意識をもち、自信をもって発言する場にしていくことが重要です。

6-2.責任追及の場ではないという共通認識と相手の立場を配慮する発言が必要

デスカンファレンスでは、参加者の誰もがそのケースについて何らかの不全感をもち、自責の念を抱いていることが多いものです。

いわば、誰かの発言を自分のことを言われているように思う下地(心理的な構え)ができている人たちの集まりなので、それを自覚して発言することが求められます。

まず、ここが非難や責任追及の場ではないという共通認識が必要です。その上で医師やコメディカル、同僚看護師の立場に配慮する言い方が重要です。また、自己弁護や自己防衛的な言い方にならないように気をつけなければなりません。

例えば、『それって的外れだよね』とか『もっとよく考えてから発言して』と激しく否定してしまうと、参加者を委縮させてしまいます。

意見に対する批判的意見はカンファレンスでは重要な要素の1つです。責任追及の場という雰囲気にせずに批判的意見を述べるためには、【肯定】+【自身の意見】という型で議論に参加するべきです。

例えば、的外れだとは言わずに『私は別の視点でこう考えました』、また、よく考えてと言わずに『私も同じような考えを持ちそこをスタートにより掘り下げて考えてみました』という表現にしましょう。

また、単に言い方の問題ではなく、相手の立場や人格を尊重しリスペクトする姿勢、自分の仕事にプライドを持つ姿勢が根底になければならないと言えるでしょう。

6-3.看護師のグリーフケアにもなることを理解し実施

デスカンファレンスで、患者さんの家族から投影された喪失感や自分のケアに対する不全感などの感情を表出することについては、賛否が分かれるところです。

しかし、デスカンファレンスが医療者同士の支え合いの場であり、グリーフケアとしても機能すべきだという意識を持っておくことは必要です。

実際には、デスカンファレンスのさまざまな課題をクリアして意義あるものにしていくことが、支え合いやグリーフケアの機能も果すことにつながると考えられます。

6-4.デスカンファレンスシートを準備し時間的制約を補完

交代勤務で全員参加ができない、日常業務が忙しくてなかなか時間が取れないという課題では、デスカンファレンスシートの活用が1つの対策になります。

デスカンファレンスシートには、次のようなことを記入し、病棟の看護ステーションに掲示します。

①開催日時、開催時間、参加者
②患者さん背景、キーパーソン(患者さんの配偶者など)、入院後の経過
③デスカンファレンスで話し合われた内容

<デスカンファレンスのテーマ例>
・ケア対象としての家族を支える
・患者さんの思いを汲み取り大切にする
・症状を緩和し苦痛を取り除く
・医療者間における連携の大切さを実感する
(引用元: がん専門病院の緩和ケア病棟で行われているデスカンファレンスの内容分析

話し合われた内容は、例えば次のように記録します。

記録例

・家族同士のコミュニケーションや家族の現状を理解していく必要がある。
・急変時に、キーパーソンとともに危機を乗り越えてくれる人はいるか探すことも重要。
・家族に情報がどのように伝わっているのか、家族間で情報共有がどの程度できているか確認できるとよかった。

このようなデスカンファレンスシートをファイルしておくことで、患者さんと家族へのケアのあり方を、さまざま視点から振り返ることができます。

6-5.問題が多いケースでは7日以内のデスカンファレンス開催

デスカンファレンスは定例カンファレンスに合わせて開くなど、実情に合わせた日時が設定されますが、とくに振り返りが必要と思われるケースはできるだけ早期に、記憶が薄れたり変容しない内に開く必要があります。

例えば、入院中に自殺したというようなケースでは、デスカンファレンスは3日以内、遅くとも7日以内に行うべきだとする医師もいます。(参照: 自殺事例に対するデスカンファレンスの実践


7.デスカンファレンスをやらなくて良い場合

デスカンファレンスをやらなくて良い場合とは、第1章で挙げた目的を達成出来ない場合です。特に医療的な課題が無い、看護師のグリーフケアの必要性が低い場合には、デスカンファレンスを行う意義は乏しいでしょう。

とはいえ、デスカンファレンス自体新しい概念です。主な疾患が死因にならなかった場合や想定よりも早くお亡くなりになった場合など、想定と異なる場合の開催が多いのが現状です。上述した目的に沿ってもっと多くデスカンファレンスを行いましょう。


8.まとめ:デスカンファレンスの重要性とその質的向上のための実践方法

デスカンファレンスはハードな交替勤務の中で行なうという現実的な制約や、一朝一夕では解決できない難しい課題を抱えています。

しかし、終末ケアの質的向上にとってデスカンファレンスが持つ意義は大きく、医療者自身のケアにもつながることです。

デスカンファレンスを形式的なものに終わらせないために、参加者1人1人が今回紹介した内容を意識し、チーム全員が協力して実りのあるものにしていきましょう。

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